レンズはカメラ本体と並んで写真を取るのに必須の機材であり、その重要性は今更強調するまでもありません。レンズの選び方についてはまた改めて記事を書きたいと思いますが、基本的には欲しい焦点距離(広角か標準か望遠か)および開放F値(どれくらい暗いところで使えるか、どれくらいのボケが得られるか)からレンズを絞り、予算と相談しながら選ぶことになりますが、ネットでのレビューを見始めると気になるのが「画質」の評価です。これは定量的でないだけになかなか比較が難しいですよね。いろいろなレベルの人がいろいろなことを書いていて、気にしなければいいとわかっていながらもついつい読んでしまい、悪いことが書いてあると気になってしまいます。
そこで今回は、私も前々から気になっていた、レンズの収差とは何か、収差は写真にどのような影響を与えるのかを調べてみました。
収差とはなにか
収差とは、レンズの不完全性によって、像が滲んだりぼやけたり歪んだりすることを言います。理想的なレンズであれば、1点から出た光はレンズを透過した後も1点に集まるものですが、現実にはそのような完璧なレンズは存在せず、後に述べる様々な要因によって像が乱れます。また、像の各点の関係が被写体上の各点の関係と相似であること、すなわち物の形が歪まずに映ることも大切です。各レンズメーカーは特殊分散レンズや非球面レンズを利用したり、レンズの材質やコーティングを工夫することによって収差を抑える努力を続けていますが、それでも補正後に残る収差(残存収差)が見られます。全ての収差を同時に抑えることはできないため、どの収差をどれくらい残してどの収差をどれくらい抑えるかは各メーカーごと、そしてレンズごとにバランスの取り方が異なります。これが「レンズの画質」や「レンズの味」と呼ばれるものです。
収差を出来る限り抑えこもうとすると、特殊な材質やコーティングを利用したり、高精度のレンズを使用したり、レンズそのものの枚数を増やしたりすることになり、必然的に高価格化と高重量化は避けられません。画質の良いレンズが高くて重いのはこのためです。逆に比較的安価なレンズではある程度収差が残っていることが多く、どの収差が目立つかという「レンズの味」で購入する一本を決めなければいけないのです。
逆に言うと、収差を知れば「安くて良いレンズ」が見つけられるようになる、と言えるかもしれません。
収差の種類
収差には、波長の違い(=色の違い)によってレンズ内での屈折分散が異なるために起こる色収差と、単一波長の光でも起こる単色収差に大別されます。色収差はさらに軸上色収差と倍率色収差に分類され、単色収差には球面収差、非点収差、コマ収差、像面湾曲収差、歪曲収差の5つが含まれます。この5つの単色収差をザイデルの5収差とも呼びます。レンズの画質を語る上で重要な周辺光量不足と逆光耐性(フレア・ゴースト)は収差には含まれないのでここでは触れません。
- 色収差 (chromatic aberration)
- 軸上色収差 (axial/longitudinal chromatic aberration)
- 倍率色収差 (transverse/lateral chromatic aberration)
- 単色収差 (monochromatic aberration)
- 球面収差 (spherical aberration)
- 非点収差 (astigmatism)
- コマ収差 (coma)
- 像面湾曲収差 (curvature of field)
- 歪曲収差 (distortion)
- 収差以外に画質に影響する要素
- 周辺光量不足 (vignetting)
- 逆光耐性 (work against bright light)
海外のレンズ評価サイトなどを見る際に参考になるので英訳も一緒にまとめておきました。
さて以下では、原理はさておき、その収差が写真にどのような影響を与えるのかを見て行きたいと思います。記述はデジタルカメラマガジン2014年3月号(P120-122)を参考にさせて頂きました。
軸上色収差
軸上色収差は、波長によって焦点距離が異なるために、ピントのあった部分の輪郭の色が滲んで見える現象です。画面中央部から周辺部で見られます。絞り込めばわずかに改善しますが本質的なものではありません。とくに大口径レンズや望遠レンズで目立ちます。
倍率色収差
倍率色収差は、波長によって屈折率が異なるために、画面周辺部で見られる色ズレです。絞り込んでもほとんど改善することはありません。とくに広角レンズや大口径レンズで目立ちます。最近は画像処理ソフトにより倍率色収差を効率的に除去することができるようになってきています(例:キヤノン純正画像処理ソフトDigital photo professionalによるデジタルレンズオプティマイザなど)。
球面収差
球面収差はレンズが球面形状であるために発生し、光軸上で光が一点に結像せずにぼける現象です。画面中央部から周辺部にかけて見られ、大口径レンズで特に目立ちます。撮影時に絞り込めばレンズ中央を通る光だけが利用される結果目立たなくなります。
非点収差
非点収差は、縦の線と横の線(動径/同心円方向)でピントがずれるために、画像周辺部で点が点に映らない現象です。レンズの端のほうで水平方向と垂直方向の曲率が微妙に異なるために起こり、絞り込めばわずかに目立たなくなるが本質的な改善とはなりません。
コマ収差
コマとは彗星のことで、コマ収差とは光軸から離れた画面周辺部で点となるべき像が彗星のように尾を引いたように写る現象である。像倍率収差とも呼ばれます。絞り込めば多少は改善しますが、球面収差とは異なりボケ方が円形とは異なる偏ったボケとなるためきれいなボケ味は得られにくくなります。
像面湾曲収差
像面湾曲収差とは、結像面が平面ではなく湾曲してしまう結果、像が歪み周辺部がボケてしまう現象です。画像内の位置にかかわらず、中央でピントを合わせると周辺部がぼけ、周辺部でピントを合わせると中央部がボケて写ってしまう。主に広角レンズで見られます。絞り込めば被写界深度が深くなる結果ある程度目立たなくなりますが本質的な改善ではありません。
歪曲収差
歪曲収差とは、直線が直線に映らなくなってしまう現象で、画面周辺部で目立ちます。一般に広角レンズでは樽型収差(画面の中心部から外側に膨らんだような歪曲)に、望遠レンズでは糸巻き型収差(画面中心部に向かって編込んだような歪曲)になります。そのためズームレンズの中間域ではこれらの歪曲収差が相殺されて目立たなくなる焦点距離が存在します。画像処理でほぼ完全に補正が可能ですが画角がわずかに狭くなってしまうという欠点もあります。
まとめ
以上を表にまとめてみました。この表もデジタルカメラマガジン2014年3月号(P120-122)を参考に若干修正しています。図はキヤノンデジタルレンズオプティマイザのページより引用させていただきました。
結論
さてさて、結論と書きましたがあまり大したことは書けそうにないです。ただ、倍率色収差と歪曲収差に関しては撮影後の画像処理でほぼ補正できるのであまり気にしなくてもよいでしょう。倍率色収差はレンズのデータを使用することでさらに効率よく補正できます。問題となるのは軸上色収差、球面収差、像面湾曲収差のように画面の中央やピント部に見られる収差です。信頼できるレビューサイトにこれらのどれかが目立つと書かれている場合は要注意です。
また大口径レンズでボケを活かした写真を撮影したい場合には、球面収差、非点収差、コマ収差が主にボケ味に影響します。これらの収差が大きい時はボケが綺麗にならないことが多いです。ボケの美しさに影響するのは球面収差とよく言われますが、残りの2つもボケが丸くならない要因となるので重要です。
さらに重要なポイントとして、最近はカメラ内部で収差の補正がされていることが多いです。そのため、同じスペックのレンズでもカメラと同じメーカーが作成した純正レンズ(キヤノンのカメラであればキヤノンのレンズ)をつければ、このカメラ内補正の恩恵にあやかれる分有利です。
しかし、最後の最後で元も子もない事を言いますが、大事なのはレビューではなく、flickrやGanrefなどの写真投稿サイトで、そのレンズで撮影された実際の写真を見ることだと思います。素晴らしい作品が多いので、どこまでが撮影者の力でどこまでがカメラの力でどこまでがレンズの力だかわからなくなりがちですが、解像度やコントラスト、ボケ味に気になるところが見当たらなければいいのです。人がなんと言おうが、自分が気にならなければOK!と割り切っていきましょう。フォトコンテストの講評で、ボケが汚いなんて言われることはまずありません。いい写真はいいんです。大事なのはやはり焦点距離とF値です。これが意図と合わなければそもそも目的の写真は撮れないんですから。その中で予算に合う一本を探せばいいと思います。